セミの王様

みんなはとっくに地上(おもて)に出てしまった。
おもてからは、みんなの歌声がした。ぼくもみんなと一緒に歌いたかったので、必死になっておもてに出ようと思ったのだけれど、出方がわからなかった。

全身を使って、バタバタともがいてみたのだけれど、ちっとも進まなかった。

右側の壁から声がした。「おい、早くしないと夏が終わっちまうぞ」
ぼくは声の主に「出方がわからないんだ。どうやったらおもてに出られるの?」と質問した。「どうやっても何も…前足で頭の上の土を掻き出して進むしかないだろ」と教えてもらった。

ぼくは教えてもらった通りに、前足で土を掻いたのだけれど、土が堅いのか?ぼくの力が弱いのか?やり方が悪いのか?やっぱりほとんど進まなかったんだ。ぼくはそのうち疲れて眠ってしまった。

ここにもおもてから、暖かい温度が伝わってくる。みんなの歌で、ぼくは目を覚ました。

ぼくも早くおもてで歌いたい。誰よりも上手に、でっかい声で歌いたい。そして、歌のチャンピオンになるんだ。王者だ。王様だ。ぼくはワクワクして、毎日土を掻き出した。

毎日掘ったよ。
時にはコンクリートや鉄の板、地中に埋まった水道管に阻まれて、迂回を強いられることもあったけれど、ぼくは毎日毎日土と格闘した。

もう何日掘ったかわからない。いつの間にかおもてからはみんなの歌は聞こえなくなっていて、おもてからの暖かい温度も感じなくなっていた。みんなどうしたのだろう?それにしても、お腹が空いたな。

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そしてついに、ぼくはおもてに出た。お月様がまんまるな夜だった。ぼくは冷たい夜風に吹かれながら、木に登って服を脱いだ。けれどおかしいな?誰もいないんだ。みんなはどこに行ってしまったんだろう?

朝が来るのを待って、太陽が昇ると、ぼくは歌い始めた。時に激しく叫び、時に甘いバラードを歌った。

歌っているのは僕だけだった。てことは、今は僕が歌のチャンピオンなのかな?だって、ライバルがいないんだもの。独壇場の一人舞台だ。ぼくは来る日も来る日も憧れた、歌の王者になれたのだ。

僕は歌い続けた。
嬉しくて鳴き続けた。
でも、寒くて、一人ぼっちで寂しくて、少しだけ泣いた。

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今日は疲れたから、もう寝ちゃうけれど、きっと明日も歌うよ。
おやすみ。
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haunted days

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濃紺

Author:濃紺
◆1971年生まれ。廃人寸前からサラリーマンへ奇跡の転身。 音楽好き。愛すべき80年代カルチャーを礎に、現在を生き未来を感じたい。東京→仙台→札幌→福岡。

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